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キスはチョコよりも甘く if...



 鈴原さんと「キスはチョコよりも甘く」で盛り上がったのですが、その中で、即興でSS書きました。
 「キスは〜」のifストーリー、銭湯着いたあたりです。



「……あれ、銭湯休みだよ」
「そ、そんなバカな」
 愕然とする乃梨子。
「ま……まあ、他にもあるんでしょ。行ってみようよ」
 私は乃梨子の手を引き、当てずっぽうに歩いたのだ、が。

 閉まっていない銭湯にたどり着いたのは、四軒目のことだった。
 我ながら、よく四軒も探し歩いたと思う。
 でも、ほどよく疲れることができたし、これで、より銭湯を味わうことができるだろう。そういうことにした。

 古ぼけた看板には、「スーパー銭湯」とマジックで書き殴ってあった。すでにいやな予感しかしない。
「ふふふ」
 でも、反対に乃梨子は楽しそうだ。
「だって、こんなところあるなんて知らなかったし。瞳子と一緒じゃなきゃ、一晩風呂抜きで終わらせてたかも」
「お風呂抜くなんて、想像できないなあ」
 言いながら、私もなんとなく楽しくなってきた。「気持ち悪くない?」
「ほら、モンゴルでは、週一でいい方だっていうし」
「モンゴルは行きたくないね。ウォーズマンにやられでもしない限り」

 そう、風呂なんて、詰まるところ、お湯が出ればいいのだ。一日の垢を流せれば、それで……。
 やぶにらみの老婆に800円(註……ひとりあたりの値段。スーパー銭湯なので高い)を渡し、市民プールのようなロッカールームで服を脱ぎ、いざ鎌倉と引き戸を開けた。

「ない」
 思わず声に出してしまった。風呂釜にお湯がないのだ。
「ウチはセルフサービスだからね! スーパーセルフサービス! 蛇口ひねって!」
 耳元で怒鳴られたかと思うくらい大きな、老婆の怒鳴り声が聞こえる。安普請のせいか、音の通りがいいのだ。
 ライオンの頭の形をした蛇口(なにか間違っている)をぐるぐるひねる。ライオンの頭がぐるり720度ほど回転した。こういうホラー映画あったよな。
 ちょろちょろとお湯が出始める。
 確かにスーパーかもしれない。入る度にお湯を入れているとしたら、これほど贅沢なものもない。客がたくさん来ているとして、の仮定だが。
「うひゃあ」
 と、乃梨子が悲鳴を上げた。
「水だ! 水しか出ない!」
 どういうスーパーな構造になっているのか、シャワーから出るのは水だけだ。

 私たちは、なにもかもあきらめて、スーパーに過ごすことにした。
 当然、他に客などいないのだから、なにをやってもいいはずだ。
 だだっ広い風呂釜に体を横たえ、ライオンの頭から出てくるお湯を桶で汲み、体を洗い流す。
 私が「スーパー!」と乃梨子の頭にお湯をかけ、乃梨子は「マリオー!」と自分の体を洗い流す。攻守を交替し、20分ずつ。

 なんだかんだで体も温まった。服を着ているうちに、気分がよくなった私たちは、銭湯お約束のコーヒー牛乳でも飲もうか、なんて話した。
「すみません、コーヒー牛乳ふたつ」
「一本200円だよ。勝手に持っていきな」
 「ゆっくり湯船につかる」なんてこととは無縁だったが、これはこれで楽しかったかもしれない。
「モンゴルの人はいつもこんな感じなのかしらね」
「モンゴルも悪くないかも」
 ロビーでしばしモンゴルトークに興じていると、やぶにらみの番頭が声をかけてきた。
「アンタたち、リリアンの生徒なんだろ」
「えっ!?」
「実は私もリリアンの卒業生なのさ」
「はあ」
「いま校長をしてるシスター上村は、私の『妹(プティ・スール)』なのさ」
「……はあ」
 曖昧に相づちを打つ。乃梨子を見ると、コンビニで再販された横山光輝の『三国志』を読んでいた。老婆の相手をする気はないらしい。

「佐織によろしくな。なんかもめ事があったら、この銭湯の名前を出したらパツイチだから。ごきげんよう」
「スーパーごきげんよう」
 私たちはスーパー銭湯をあとにした。
「シスター上村の『姉(グラン・スール)』に会えるとは思わなかったわ」
「えっ、なんの話」
 乃梨子は、完全に話を聞いていなかったようだ。それが、精神衛生上、なにかといいと思う。





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