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Stairway To Heaven



 楽しいクリスマスパーティが終われば、外はもう真っ暗。
 冬の夜は早い。
 電灯の明かりに導かれるように、山百合会のメンバーたちが、薔薇の館から校門へと向かう。
 由乃の横では、蓉子さまと江利子さまが肩を組んで気勢を上げ、その隣で令ちゃんと志摩子さんがクリスマスケーキの話で盛り上がっている。昨年くらいまではつんとしていた祥子さままで、妹(プティ・スール)の祐巳さんとにこにこ顔だ。
 確かに、異常に楽しいクリスマスパーティだった。クリスマスツリーの両脇には門松が立っているところからして異常だ。
 クリスマスツリーの下では、巨大こいのぼりをかぶせられた祐巳さんが、抜け出ようとしているのか否かわからないが、いもむしのように這いずりまわっていた。最後にはひな壇に頭から突っ込み、お内裏様とお雛様と五人囃子と三人官女の下に埋もれていた。
 こんなことが薔薇の館で行われていると知ったら、一般生徒はさぞたまげたろうな、と思う。
 パーティを振り返っていると──。
 がばっ!
「うおあ!?」
 いきなり後ろから抱きすくめられ、由乃は悲鳴のような驚きの声を上げた。
「お、初めてだけど、なかなかいい反応」
「……白薔薇さま(ロサ・ギガンティア)」
 聖さまの腕に、ぎゅう、と力がこもる。
 どんな気まぐれかわからないが、今晩の聖さまのセクハラターゲットは由乃になったらしい。
 他のメンバーは、ふたりを置いてどんどん校門に向かっている。
「離してください! 祐巳さんを相手にしたらいかがですか」
「だって祐巳ちゃん、こいのぼりかぶせてから、ずっと口きいてくれないんだもん」
 本人の自供通り、祐巳さんに巨大こいのぼりをかぶせたのは、聖さまだった。
 聖さまは、由乃の耳にささやくように言う。
「いじめたくなっちゃうんだよね、君たちを見てると」
「私のことを『襲わない』って、この前、お姉さまに言ったばかりじゃないですか」
「由乃ちゃんには、ずっと抱きつくタイミングがなかったから。私に抱きつかれたかったから、手術したんでしょ?」
「……はあ」
 ため息。
 相変わらずの、とんでもないうぬぼれ屋だ。
「手術したのは、自分のためです」
「『令ちゃん』の隣を歩くため?」
「……そんなところです」
 聖さまは、由乃を腕の中から解放した。
 片腕は、由乃の肩に置いたままだ。
 ふたりはまた、歩き始めた。
「その気持ち、わかるな」
「え?」
「自分のために手術した、ってこと」
 聖さまの横顔は、どことなく淋しげだ。
「私にもね、そんなところがあるから。一緒にいたい人がいたとしても、縛られたくない。適度に距離を保っておきたいんだ」
「志摩子さんの……ことですか」
「かもね」
 由乃は、ここ数日のことを思い出した。
 『いばらの森』騒動。
 一年前、聖さまには、好きな人がいた。
 久保栞という人だそうだ。
 小説の内容は、酷似していたという。
 他人に依存し、依存される。
 そんな関係が描かれていた。
 聖さまは、その時、ずいぶんと「痛い目を見た」らしい。
 いまの聖さまは、その反動か。
 明日から十八歳だというのに、子供っぽく振る舞っているのも、「二度と過ちを犯さない」という気持ちからなのかもしれない。
「私、去年までは、クリスマスなんて壊れてしまえばいい、って思ってました」
 そんな恥ずかしい告白をしてしまったのも、聖さまの言葉に釣られたせいだ。
「へ? ……あはは」
「病室で、テレビからは楽しそうな声が聞こえて。令ちゃんはつきっきりでいてくれたけど、それもまた悔しくて」
 他人の優しさが、心をえぐる刃になる時もある。
 由乃は、そのことがよくわかっていた。
「でも、壊れていたら、祐巳さんに会えなかった。志摩子さんにも。祥子さまや、薔薇さま方にも。大勢で過ごすクリスマスがあるなんて、きっと知らないままだった」
「私への感謝は?」
 と、聖さまが不満げに言う。
「言ったじゃないですか、『薔薇さま方にも』って」
「一緒くたじゃやーだー。私は由乃ちゃんの『特別』でいたいの」
「ご自分の妹に言ったらいかがですか」
 冷たく言ったあと、思わず吹き出す。
 聖も釣られて、ひとしきり笑い合った。
「おやおや、『孫娘』とずいぶん楽しそうじゃないの」
 前方から声をかけてきたのは、江利子さまだ。
「そりゃあ、楽しいよ。なんてったって、クリスマスで誕生日だからね」
「ねえねえ、なんの話?」
 紅薔薇(ロサ・キネンシス)姉妹の三人に、令ちゃんと志摩子さんまで寄ってくる。
「世界が平和でよかったね、って話。神様のおかげかな?」
 由乃は、いいえ、と首を振ると、傍らを指さした。
「そりゃあ……」
 指の先で微笑んでいるのは、マリア様。
「マリア様のおかげでしょう」
 今度はみんなで笑い合う。
 と。
「あなたたち!」
 シスターの声が聞こえた。
「こんな時間までなにをやっているの!?」
「まずい、逃げろ!」
 聖さまが、由乃の手を取って走り出す。
「え、ええ!?」
 釣られるように併走するのは祐巳さんと志摩子さん、それに江利子さま。令ちゃんなんか健脚だから、私たちを追い抜いていってしまう。
「待ちなさい!」
 そんな声が背中から聞こえてくるが、待つような聖さまじゃない。事後処理は蓉子さまと祥子さまに押しつけるつもりか。
 すぐに肺が悲鳴を上げ始めるが、由乃は半ば笑いながら走り続けた。
 確かに、クリスマスが壊れていたら、みんなではしゃげなかったろう。
 神様、マリア様。
 みんなといさせてくれて、ありがとう。



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