| ■Top | ■Profile | ■Blog | ■SS | ■Note | ■Compilation | ■Link | ■Mail Form |
|
Stairway To Heaven 楽しいクリスマスパーティが終われば、外はもう真っ暗。 冬の夜は早い。 電灯の明かりに導かれるように、山百合会のメンバーたちが、薔薇の館から校門へと向かう。 由乃の横では、蓉子さまと江利子さまが肩を組んで気勢を上げ、その隣で令ちゃんと志摩子さんがクリスマスケーキの話で盛り上がっている。昨年くらいまではつんとしていた祥子さままで、妹(プティ・スール)の祐巳さんとにこにこ顔だ。 確かに、異常に楽しいクリスマスパーティだった。クリスマスツリーの両脇には門松が立っているところからして異常だ。 クリスマスツリーの下では、巨大こいのぼりをかぶせられた祐巳さんが、抜け出ようとしているのか否かわからないが、いもむしのように這いずりまわっていた。最後にはひな壇に頭から突っ込み、お内裏様とお雛様と五人囃子と三人官女の下に埋もれていた。 こんなことが薔薇の館で行われていると知ったら、一般生徒はさぞたまげたろうな、と思う。 パーティを振り返っていると──。 がばっ! 「うおあ!?」 いきなり後ろから抱きすくめられ、由乃は悲鳴のような驚きの声を上げた。 「お、初めてだけど、なかなかいい反応」 「……白薔薇さま(ロサ・ギガンティア)」 聖さまの腕に、ぎゅう、と力がこもる。 どんな気まぐれかわからないが、今晩の聖さまのセクハラターゲットは由乃になったらしい。 他のメンバーは、ふたりを置いてどんどん校門に向かっている。 「離してください! 祐巳さんを相手にしたらいかがですか」 「だって祐巳ちゃん、こいのぼりかぶせてから、ずっと口きいてくれないんだもん」 本人の自供通り、祐巳さんに巨大こいのぼりをかぶせたのは、聖さまだった。 聖さまは、由乃の耳にささやくように言う。 「いじめたくなっちゃうんだよね、君たちを見てると」 「私のことを『襲わない』って、この前、お姉さまに言ったばかりじゃないですか」 「由乃ちゃんには、ずっと抱きつくタイミングがなかったから。私に抱きつかれたかったから、手術したんでしょ?」 「……はあ」 ため息。 相変わらずの、とんでもないうぬぼれ屋だ。 「手術したのは、自分のためです」 「『令ちゃん』の隣を歩くため?」 「……そんなところです」 聖さまは、由乃を腕の中から解放した。 片腕は、由乃の肩に置いたままだ。 ふたりはまた、歩き始めた。 「その気持ち、わかるな」 「え?」 「自分のために手術した、ってこと」 聖さまの横顔は、どことなく淋しげだ。 「私にもね、そんなところがあるから。一緒にいたい人がいたとしても、縛られたくない。適度に距離を保っておきたいんだ」 「志摩子さんの……ことですか」 「かもね」 由乃は、ここ数日のことを思い出した。 『いばらの森』騒動。 一年前、聖さまには、好きな人がいた。 久保栞という人だそうだ。 小説の内容は、酷似していたという。 他人に依存し、依存される。 そんな関係が描かれていた。 聖さまは、その時、ずいぶんと「痛い目を見た」らしい。 いまの聖さまは、その反動か。 明日から十八歳だというのに、子供っぽく振る舞っているのも、「二度と過ちを犯さない」という気持ちからなのかもしれない。 「私、去年までは、クリスマスなんて壊れてしまえばいい、って思ってました」 そんな恥ずかしい告白をしてしまったのも、聖さまの言葉に釣られたせいだ。 「へ? ……あはは」 「病室で、テレビからは楽しそうな声が聞こえて。令ちゃんはつきっきりでいてくれたけど、それもまた悔しくて」 他人の優しさが、心をえぐる刃になる時もある。 由乃は、そのことがよくわかっていた。 「でも、壊れていたら、祐巳さんに会えなかった。志摩子さんにも。祥子さまや、薔薇さま方にも。大勢で過ごすクリスマスがあるなんて、きっと知らないままだった」 「私への感謝は?」 と、聖さまが不満げに言う。 「言ったじゃないですか、『薔薇さま方にも』って」 「一緒くたじゃやーだー。私は由乃ちゃんの『特別』でいたいの」 「ご自分の妹に言ったらいかがですか」 冷たく言ったあと、思わず吹き出す。 聖も釣られて、ひとしきり笑い合った。 「おやおや、『孫娘』とずいぶん楽しそうじゃないの」 前方から声をかけてきたのは、江利子さまだ。 「そりゃあ、楽しいよ。なんてったって、クリスマスで誕生日だからね」 「ねえねえ、なんの話?」 紅薔薇(ロサ・キネンシス)姉妹の三人に、令ちゃんと志摩子さんまで寄ってくる。 「世界が平和でよかったね、って話。神様のおかげかな?」 由乃は、いいえ、と首を振ると、傍らを指さした。 「そりゃあ……」 指の先で微笑んでいるのは、マリア様。 「マリア様のおかげでしょう」 今度はみんなで笑い合う。 と。 「あなたたち!」 シスターの声が聞こえた。 「こんな時間までなにをやっているの!?」 「まずい、逃げろ!」 聖さまが、由乃の手を取って走り出す。 「え、ええ!?」 釣られるように併走するのは祐巳さんと志摩子さん、それに江利子さま。令ちゃんなんか健脚だから、私たちを追い抜いていってしまう。 「待ちなさい!」 そんな声が背中から聞こえてくるが、待つような聖さまじゃない。事後処理は蓉子さまと祥子さまに押しつけるつもりか。 すぐに肺が悲鳴を上げ始めるが、由乃は半ば笑いながら走り続けた。 確かに、クリスマスが壊れていたら、みんなではしゃげなかったろう。 神様、マリア様。 みんなといさせてくれて、ありがとう。 |